タクシー業界の働きやすさ改革
2026/01/12
前回のコラムで、タクシー業界が、全産業と比較しても優位な働き易さを実現し、「労働者を集めるのではなく、労働者が自然と集まる」状態にすることが重要だ、という考えをお伝えしました。
これはライドシェアに対するアンチテーゼでもあります。名古屋大学の加藤先生がライドシェアを解禁したらドライバーが湧いて出てくるのか?と疑問を呈されておられましたが、人流が多くて一定稼げる都会では自分の都合の良い時間に自由に働きたいギグワーカーが、自然と湧いて出てきます。
問題は、それを加速させる新法を作って社会全体にとって良いことなのか?です。確かに配車アプリは便利で、ITを活用して気軽に就労機会を得ることが出来ますので、労働者にとってもメリットがあるように見えます。しかし、これは、実は新自由主義の流れを汲む論者が、非正規雇用の増加を正当化しているのと同じ理屈です。ギグワーカーが湧いて出てくるのは、雇用の不安や賃金の伸び悩みが背景にある為であり、便利快適さの実現の裏に、労働者の中期的な成長機会や幸福度の低下があることを決して忘れてはなりません。
やや話を大きくします。少子化の原因が未婚化であることは明らかになっています。ここでライドシェア新法を望む政治家や論者に問いたい。あなたのご子息(息女)の結婚相手を紹介された時に、職業がライドシェアドライバーと言われて、本当に何の躊躇も不安も生まれないですか? いや、職業に貴賎なし、ライドシェアドライバーは結婚し子供を育てること等出来ない、と言うつもりはありません。しかし、タクシードライバーはかつて公然と現実に一部の有識者に「タクシーは生産性の低い人がやむを得ずにやる仕事」とボロクソに言われ続けていました。それが果たしてどうでしょうか。令和5年の東京のタクシー運転者の年間給与推定額は、残業時間こそ多少多いですが、全産業の平均値を超えました。タクシードライバーの社会的地位を上げる先輩方及び関係者の努力の賜物です。タクシードライバーをやりながら、子育てをする家庭が数十年ぶりに増加することが楽しみです。(そんなデータはないでしょうが)
人口減少時代に必要なのは、雇用の流動性を無駄に高める施策ではなく、自分にとってより良い仕事に就くことで生産性を上げていく施策なのではあり、多くの人にとって安心してより高い賃金を目指して頑張れる仕組みづくりです。請負労働者の増加→将来収入の不安→結婚回避→少子化という負のループを生む施策は、愚の骨頂です。規制改革会議には、請負の配達業をやりながら子育てをしている世帯数を是非とも調査をして頂きたい。国会議員は、「駅にタクシーがいなくて困る」というような近視眼的な問題の解決ではなく、日本社会の抱える課題の全体像を捉えた上で、より大所高所から法の立案をして頂きたいものです。駅のタクシー問題は、それこそより乗降りしたくなるような乗り場を民間が競って考えればよいことです。
他方、タクシー業界も、単に「賃金水準が上がり長時間労働も改善しました」だけでは、他産業との競争において、必ずしも優位という訳でもありません。特に、賃金水準では、人口減少著しい地方都市では厳しい実情もあるでしょう。現状は、賃金水準と労働時間だけを働き易さの指標として見過ぎだと思います。したがって、別の側面から「働き易さ」を考える必要があります。
給料が悪いから改善して欲しい、という主張は、よくかみ砕いてみると、自分の仕事の価値を認めて欲しい、という内なる叫びだったりすることがあります。だとするならば、「仕事に対する自己肯定感」も働き易さの重要な源泉であるとみなすことが出来ます。しかし20代から80代まで幅広く雇用をしているタクシー会社にとって千差万別の「働き易さ」の実現は、大変に難しい。
私は、所謂日本型雇用をタクシー業界に取り戻すことで労働者が集まる状態に持っていける、という仮説を持っています。つまり、年功に応じたキャリアの用意やメンバーシップ型雇用(家族的経営)といったことです。端的に、何故この会社で働くのか?というビジョンの共有や、社員の結婚や出産、部活、イベント、再就職を祝える労使関係を実現することです。復古的に思えるかもしれませんが、令和時代に我々がトライする価値のある事柄だと思います。続きはまた次号にて。
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