働きがいを高める日本型雇用の重要性
2026/01/12
解雇規制が自民党総裁選の論議になりました。確かに解雇規制に悩んでいる経営者は多く、事故や苦情が多かったり、職務怠慢な従業員を退職勧奨する交渉術を日々磨いておられる社長、管理者もいらっしゃることでしょう。事故や苦情が多く仕事のやる気もないなら、働き手が向き不向きを自分で考えて職場を変えればいいのに、それが雇用の流動性だと思いますが、経営者も売上減少に繋がる為、乗務員に強く改善指導ができず、多くの経営者が、この手の労務管理にストレスを感じている筈です。
勿論、どんな立派な会社でも働かない問題社員は一定数いるので、管理職の避けられない仕事ではあります。しかし、タクシー業界に、仕事と労働者の適性のアンマッチが多いのは明確な理由があります。それは、「振るい落す為の採用面接」ではなく、「採る為の採用面接」をしているからです。人手不足の業界は、構造的に向上心のない従業員を雇いがちなのです。
前回の寄稿で、むしろタクシー業界には、日本型雇用を根付かせることが重要ではないか、と書きました。しかし、日本型雇用の良い所は残しながら、労働力が湧いてきた昭和時代の悪しき風習は、改めなければなりません。
平均年齢の高いタクシー業界の働き手は、「働く」とは、自分を犠牲にして対価として給料をもらうことだと考えている人が多いように感じます。しかし、苦行に耐えて賃金を得る、という働き方は、人口減少時代に生産性が低く、大きな問題です。
私は、仕事そのものが自分の幸福であることが、生産性向上への鍵と思います。勿論、成果を出すには厳しい努力も必要です。しかし、努力が実った時に感じられるやりがいを求めて働く人が最も生産性が高い、というのは間違いありません。従業員の帰属意識の醸成が難しい零細企業は、特にそうした「幸福」を社員に届ける場である必要があります。
高名な説教によると、「幸福」とは、①人に愛されること、②人にほめられること、③人の役に立つこと、④人に必要とされること、と言われます。ここで注目すべきは、②~④は、働くことを通じて、得られるものだ、ということです。つまり、幸福とは、スマホ片手にヘラヘラ過ごすのではなく、働くことを通じて得られるものなのです。
タクシーは、「人の役に立っている感」「必要とされている感」が強い仕事であり、その意味では幸福感に繋がるチャンスの多い仕事です。②~④は、特別なスキルが必要かというとそんなことはありません。
重要なのは、お客様の喜びの声や、他の従業員からの感謝の気持ちを出来る限り可視化することです。タクシー業界は、労働市場には多額の広告投資をして、賃金以外の仕事の魅力をあの手この手で伝えています。しかし、労働市場だけではなく、入社後の会社内や教育現場にも併せてしっかりと伝えていくことが、重要です。
東宝タクシーでは、電子掲示板TUNAGというアプリを活用し、表彰や誕生日祝い、地元グルメ等、ポジティブな情報をアクセスできるようにしています。
教育機関での職業講話も重要な取組みです。学生達に賃金の多寡を伝えても仕方がありません。手前味噌ですが、自社のホームタウンの鶴見では、鶴見小学校、寺尾中学、私立東高校、横浜商科大学、とあらゆる学生に、毎年タクシーの魅力を伝え続けています。仕事に誇りを持てる従業員を増やしていくには、10年以上かかると思いながらやっています。ちなみにこうした教育機関とのご縁を持ったのも、子育てタクシーの連携NPOからのご紹介によるものです。関東運輸局管内では、バリアフリー教室というのがあり、もっと充実させていきたいところです。
話を元に戻します。日本企業の生産性の低さは、解雇規制による雇用の流動性の低さが問題なのではありません。働き甲斐を持てないまま、生活の為だけに自分を誤魔化しながら働き続ける雇用慣行が問題なのです。リスキリング等、小手先の策は、中小企業の現場を知らない人の発想です。問題はずっと深刻で、学生時代にやりたい仕事を見つけ、その為に学ぶ、という学生時代を送っていないのです。そして、実際に働き出しても、やりがいが個人レベルに左右されるか、やりがいが苦行を経て得た賃金のみ、という現在の状況を改善していくことが根本的な解決策です。向上心を持った応募者がタクシー業界に集まる「振るい落とす為の面接」を目指して、今月も頑張っていきたいと思います。